福岡地方裁判所 昭和56年(ワ)992号
原告
鯨津憲司
右訴訟代理人弁護士
中村仁
同
有馬毅
被告
株式会社講談社
右代表者代表取締役
野間惟道
右訴訟代理人弁護士
小倉隆志
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は原告に対し、金一一三八万〇一三一円及び昭和六〇年一一月以降毎月二〇日限り、各金一二万二三六七円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五二年一月二六日、被告会社に雇用された(この契約を以下「本件雇用契約」という。)。
2 被告会社は、昭和五三年一月二六日以降、原被告間の本件雇用契約が終了したとして争い、原告に対し賃金の支払いをしない。
3 原告の賃金は、一か月あたり基本給一〇万六五〇〇円、健康保険手当三八六八円及び時間外手当一万一九九九円(昭和五二年六月から昭和五三年一月までの平均額)の合計一二万二三六七円であり、毎月二〇日に支払われていた。
4 よって、原告は、被告会社に対し雇用契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、昭和五三年二月分から昭和六〇年一〇月分までの未払賃金合計一一三八万〇一三一円及び本件口頭弁論終結時後の同年一一月以降毎月二〇日限り各金一二万二三六七円の賃金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実はすべて認める。但し、原告の賃金のうち時間外手当については、実働していない原告が請求するのは失当である。
三 抗弁
1 本件雇用契約は、臨時雇用者として期間一年の定めのある契約であり、昭和五三年一月二五日をもって期間が満了した。
(一) 被告会社がこのような臨時雇用制度を採用した沿革は以下のとおりである。
被告会社の業務には、経験と熟練を要する基幹業務とこれを要しない補助業務とが存在し、本来は正社員が基幹業務を担当するかたわら補助業務も処理することになっていた。しかしながら、補助業務が増大すると正社員のみでまかなうことは困難となり、補助業務を専任とする要員を雇う必要が生じる。この場合、補助業務専任者は、担当業務の性格からして能率の向上は期待しえない反面、長期間雇用すると毎年昇給させざるを得ず、ここに賃金と能率のアンバランスが生じる。これを合理的に調節するため、補助業務専任者については契約に期間を定める臨時雇用者としたものである。
この臨時雇用者は、昭和二〇年代から存在していたが、臨時雇用者を使用する上司の温情もあって、契約期間の更新を繰り返すことによりこの期間の定めが有名無実化するという状況になってしまった。そのため、被告会社は、昭和四一年に臨時雇用者の内規を大幅に改正し、以後採用する臨時雇用者については雇用継続期間は最大限一年とし、内規の運用上その後再契約する場合も一年の範囲内で一回限りとする一方、既に雇用されていた臨時雇用者については従前どおりの扱いをすることとして「継続一年を越える臨時雇用者に関する特別内規」を作成した。この内規は、本社においては直ちに実施されたが、支社においては雇用事情の好転したオイルショック後の昭和四九年以降採用の臨時雇用者について厳格に運用されることとなった。
すなわち、支社の臨時雇用者の契約期間は基本的には三か月ではあるが、期間の更新により最長一年まで継続的に雇用することとし、一年の期間満了後も両当事者の合意があればもう一回限り前同様の方法による最長一年の再雇用をすることとなった。
(二) 原告は、この内規の厳格な運用のなされている昭和五二年に採用されているところ、被告会社福岡支社長村崎(以下「村崎支社長」という。)は、その採用にあたり、昭和五二年一月一五日付の西日本新聞に「期間=一年~二年」との記載のある求人広告を掲載し、同月二〇日の採用面接試験の際、原告に対し、契約期間は三か月更新の一か年打切りであり、必要があるときに双方話合ってもう一年一回限りの再契約もあり得ると話し、また、同月二五日、原告に契約期間は一年であるとの確認書を提出させてもいる。
(三) したがって、本件雇用契約は、形式的には三か月の有期契約であるが一年を限度として更新することが予定された実質的には期間一年の契約である。
2 (消滅時効)
労働者の賃金債権の時効は、労働基準法一一五条により二年と定められているから、本訴提起の日である昭和五六年四月七日で既に二年を越えている昭和五四年三月以前の賃金債権合計一五九万〇七七一円は時効により消滅している。
被告会社は、昭和五六年七月一五日の本件口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
(認否)
抗弁1の本件雇用契約に期間の定めがあったとの事実は否認する。
同(一)の事実中、被告会社福岡支社において昭和四九年以降内規が厳格に適用されていたとの点は否認し、その余は不知。同(二)の事実中、村崎支社長が被告会社主張の新聞広告を掲載したこと及び昭和五一年一月二五日に原告が確認書を提出したことを認め、村崎支社長の発言内容は否認する。同(三)は争う。
抗弁2は争う。
(主張)
1(一) 被告会社の臨時雇用制度の実態
被告会社の福岡支社においては、昭和五二年当時正社員七名に対し臨時社員四名が存在していたが、臨時社員の業務は倉庫管理業務、商品の在庫管理、テレックスオペレーション、売行き調査、取次ぎ・書店との受注・連絡など日常的に欠かせない恒常的仕事であり、一時的なものではなかった。このことから、被告会社の臨時社員の雇用期間は、形式的には一律三か月とされていたものの、本人が望む限り雇用契約を更新しており、その結果数年にわたり継続して雇用される者も少なくなく、雇用契約における期間の定めは有名無実化していた。
被告会社福岡支社における原告を除く臨時雇用者の雇用状況は別表のとおりであるが、被告会社が内規の厳格な運用を始めたとする昭和四九年以降採用された臨時社員五名のうち、畠中裕子は継続して二年を越えて、小野恭彦は途中一か月の中断はあるが二年を越えていずれも勤務している。
したがって、被告会社主張のように内規の厳格な運用がなされていたとは言えない。
(二) 原告雇入れの経緯及びその後の経過
村崎支社長は、昭和五二年一月二〇日の採用面接試験の際、原告に対し、「期間三か月の雇用契約となっているが、これは形式的なもので、少なくとも二年間は雇う。まじめに働いてくれればもっと長く働いてもらう。」と言い、また、同月二五日、原告に対して確認書の署名捺印を求める際も、「これに署名・捺印して下さい。これは形式的なものですから。」とも言っていた。すなわち、このことは被告会社の側自ら期間の定めの無意味なことを認めていたことを意味する。
また、原告が、同月二五日に被告会社福岡支社に出勤した際、臨時雇用者の就業に関する内規を示されたが、このとき原告が閲覧した内規には、末尾に「継続契約一年以上の臨時雇用者に関する特別内規」が付いており、この特別内規の適用対象者を限定するような文言は右内規の中にはなかった。
さらに、原告の業務は倉庫管理業務、商品の在庫管理、売行き調査、取次ぎ・書店との受注・連絡など日常的に欠かせない恒常的仕事であって一時的なものではなく、右の経緯で採用された後、格別のチェックも手続きもなく、三か月ごとに三回にわたり雇用契約を更新された。
(三) 従って、右のような状況の下で締結された本件雇用契約は、形式的には三か月の有期契約であるけれども、実質的には当初から期間の定めが無いものとして成立し、仮にそうでないとしても、少なくとも三回目の更新を経たときまでには、期間の定めのないものとして成立したものである。
2 仮に本件雇用契約に期間の定めがあったとしても、その定めは公序良俗に反して無効である。
すなわち、被告会社において、臨時雇用者が担当している業務は、決して短期的・季節的なものではなく恒常的業務であり、このような恒常的業務について臨時雇用制度を設けることは合理性を有しない。被告会社の臨時雇用制度の目的は、賃金の上昇を制限するとともに、会社に自由な解雇権を留保しようとするもの(企業に対する不穏分子をいつまでも自由に企業から排除しようとするもの=臨時雇用者の団結権を阻害するもの)である。このことは、被告会社が同社労働組合と結んだ労働協約上、臨時雇用者を労働組合の構成員から除外しているとともに、右労働組合を被告会社における唯一の労働組合であるとしており、臨時雇用者が別個に労働組合を組織することを得ない存在とされていることにも示されている。換言すれば被告会社は臨時雇用制度に藉口して臨時雇用者の労働三権を侵害し、労働者の地位、権利を不当に弱めようとしているのであり、このような被告会社の意図は働く権利を保障した憲法二八条、労働者の均等待遇を保障した労働基準法三条その他解雇制限条項に違反するものであるから、このような意図のもとに制定された臨時雇用制度は公序良俗に違反するものであって無効である。
3 (不当労働行為)
以上述べたとおり、本件雇止めは実質上解雇に相当するところ、その解雇の理由は被告会社が福岡地区合同労働組合(以下「合同労組」という。)の組合活動を嫌悪し、福岡支社からその組合員を排除しようとしたためであるから、本件雇止め(解雇)は労働組合法七条一号に該当するものであって無効である。その経緯は以下に述べるとおりである。
被告会社における臨時雇用者の労働条件は、正社員に比べて劣悪であり、原告はこの臨時雇用者の労働条件を向上させるために被告会社の労働組合へ加入しようとしたが、組合規約上加入が不可能であった。そこで、昭和五二年一〇月ころから福岡市内にある中小零細企業労働者を対象とした個人加入の労働組合である合同労組と接触し、同年一二月一日、同組合に加入した。同組合は、同年一二月二六日、原告が同組合員であることを被告会社に通告するとともに、その身分・労働条件等の改善について団体交渉を申入れた。その要求事項は、臨時雇用制度の撤廃、基本給を一八万円に増額すること、年末一時金一〇八万円の支給等であった。これに対し、被告会社は、強い要求を打出す右組合の姿勢に驚き、様々な口実を設けて団交に応ずるか否かの回答を引き延ばした。そして、被告会社福岡支社のうち右組合の組合員が原告一人であったため、これを解雇すれば同組合とのかかわりを断てると判断し、昭和五三年一月一三日、原告に対し雇止めの通知をし、同月一七日、同組合に対し「要求に応じられないので団交に応じられない。」と団交自体を拒否する旨通告し、更に原告の雇止めに関する同日の組合側の団交要求に対しても、被告会社は同月二〇日、団交を拒否する旨通知した。
4 (時効の抗弁に対する主張)
原告は、本件雇止めの意思表示があった後直ちに、福岡県地方労働委員会に対し本件雇止めが不当労働行為であると主張して、救済命令の申立てをなし、その申立ての中で被告会社に対し、原告を原職に復帰させ、かつ原職に復帰するまでの間の賃金支払を求めた。右申立ては昭和五五年七月一五日棄却されたが、原告は直ちに右棄却命令の取消しを求めて訴えを提起するとともに、昭和五六年四月七日、本件訴えを提起したものである。
救済命令の申立ては、通常の催告のように単なる私的なものとは異なり、国家機関に判断を仰ぐものである。したがって、右救済命令申立ては裁判上の請求に準じるものと解すべきであって、本件において消滅時効は成立していない。
五 原告の主張に対する認否及び反論
1 原告の主張1(一)の事実中、臨時雇用者の業務が一時的なものでないこと及び被告会社福岡支社の原告を除く臨時雇用者の雇用状況が別表のとおりであることを認め、その余は否認する。同(二)の事実中、臨時雇用者の就業に関する内規の末尾に特別内規が付いていたこと及び原告の業務が一時的なものでないことは認め、その余は否認する。同(三)は争う。
2 同2の公序良俗違反との主張は争う。
3 同3の不当労働行為であるとの主張は否認する。本件雇止めは、以下に述べるように原告の業務量減少によるものであって、合理的理由がある。
昭和五二年三月に被告会社の販売総局長に就任した長谷川喜市は、販売促進の強化と業務運営の合理化の一環として、拡材を支社を経由しないで本社から販売取次店を通して直接書店に送付することとし、同年一〇月から実施した。この結果、被告会社福岡支社の倉庫業務は激減すると見込まれたため、長谷川局長は、経費節減の観点から現に採用している三つの支社の倉庫担当臨時雇用者について現在の期間満了後は再雇用しないとの方針をたて、昭和五三年一月一〇日から開催される支社長会議の席上で発表して各支社長の承諾を得た。村崎は、この支社長会議の結果に基づき、同月一三日、原告に再雇用しない旨通知したものである。
4 原告の主張4は争う。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因事実についてはすべて当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁1の本件雇用契約の期間の定めの有無について検討する。
1 まず、被告会社が臨時雇用制度を設けた趣旨、目的及びその運用の実態について検討するに、当事者間に争いのない被告会社における臨時雇用者の業務自体は一時的なものでない事実及び被告会社福岡支社における原告を除く臨時雇用者の雇用状況が別表のとおりである事実(原告の主張1(一)のうち被告会社の認めているもの)に加え、(証拠略)によれば以下の事実を認めることができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 被告会社の業務には、経験と熟練を要する基幹業務とこれを要しない補助業務とが存在し、本来は正社員が基幹業務を担当するかたわら補助業務をも処理する建前になっていたが、補助業務の増大に伴い正社員のみでこれをまかなうことが困難となった。そこで、同社においては、このうちの補助業務を専任とする要員を雇う必要が生じたが、その場合右要員について、これを長期雇用にすると仕事の性質上能率の向上は期待できないのに昇給はさせざるを得ないという不合理な面が生じてくるため、この賃金と仕事の能率とのアンバランスを合理的に調節して人件費を節約する目的の下に、昭和二〇年代から雇用期間を定めた臨時雇用者をもってこの補助業務に充てることとしていた。
(二) そして、昭和四〇年以前までは、特に期間について内規に定めはなかったものの、現実には期間を三か月と定めた契約を更新する形をとっていた。しかし、本来補助業務といっても季節的・一時的なものではないし、また臨時雇用者とはいえ一旦採用した場合にはやはり臨時雇用者の側で継続採用を希望するのが通例であるし、現場の上司もこれに答えようとして来た等の事情があって、現実には契約の更新が繰り返され、結果としては期間の定めが有名無実化し、人件費の節約という当初の目的が達成できなくなった。そこで、被告会社は、昭和四一年に至って臨時雇用者の内規を改正して左記条項を含むようにし、新規の臨時雇用者について契約の継続期間は一年を限度とするという定めを厳格に運用するとともに、再契約に関しては運用上一年以内で一回限りとする一方、既存の臨時雇用者については、特に別途「継続一年を越える臨時雇用者に関する特別内規」を定め、これを適用することによって従来どおりの取り扱いをすることとした。
記
第一条 臨時雇用者の労働契約は、原則として三か月または三か月以内とする。
ただし、期限満了までに会社と本人の両者に異議がない場合は、さらに三か月を限って契約を延長する。
第三条 臨時雇用者の継続契約は、一年をもって限度とする。
ただし業務の終了する時期など特別の事情のある場合は一年を越えることがある(尤も、右但書は、昭和四四年に削除されている。)。
第七条 継続契約一年を満了して契約を解いた臨時雇用者で契約解除後一年以内に再契約となった者をこの内規で再契約者という。
(三) 被告会社本社においては直ちに右改正に基づいた臨時雇用者制度の運用がなされその結果多くの臨時雇用者が一年以内の期間で離職するようになり、昭和五一年ころには八、九〇名いた臨時雇用者のうち二五パーセントから三〇パーセントの者だけが再契約され、その再契約も運用上一年の範囲内で一回限りとされた。そして、その雇用期間の限度について更に厳格な運用を期するため、被告会社本社においては昭和四七年以降臨時雇用者から確認書(臨時雇用者に自己の雇用期間を確認する旨記載させたもの。)を徴するようになった。
他方、支社についても後記(四)のとおり、臨時雇用者採用の最終決定権限は本社総務局にあったが、雇用事情の悪化などから支社においては必ずしも昭和四一年改正の内規に従った運用が厳格にはなされず、従前どおり契約の更新が繰り返されていた。しかし、いわゆる石油ショック以後の昭和四九年になると、雇用事情の好転により、支社においても右内規に従って厳格な運用をするようにとの本社総務局からの指示に基づき、前記確認書を提出させる扱いになった。その際、既に雇用されていた畠中裕子については、採用後間がなかったことからこの新しい扱いによることを承知させるよう特に指示がなされた。
(四) なお、被告会社においては、社員の採用に関する事項は総務局人事第二課で扱われるのに対し、臨時雇用者の採用に関する事項は同人事第一課によって扱われ、各支社において臨時雇用者を選考、採用する場合には、支社長が現地で候補者を選んだうえ、本社総務局に対しその者の経歴・面接状況等の報告をして許可を求める手続が必要である。
2 次に、被告会社が原告を雇入れた経緯について検討するに、当事者間に争いがない事実(抗弁三1(二)のうち原告が認めているもの及び原告の主張四1(二)のうち被告が認めているもの)に加え、(証拠略)を総合すると以下の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 被告会社は、昭和五二年一月一五日付の西日本新聞に、「男子臨時社員、職種=倉庫管理、期間=一年~二年」他の記載のある求人広告を掲載した。原告は、この新聞広告を見て被告会社に応募し、同月二〇日に採用面接試験を受けたが、その際村崎支社長は原告に対し、身上経歴に関する質問をした後、会社の概要及び原告の担当する業務内容として倉庫管理の他、荷受け・発送、売行調査の補助、書店・取次との連絡等の説明をし、更に、「雇用期間については三か月ごとに契約を更新するが、一年経過すれば契約は打切る、但し必要があればさらに一年間だけ再契約する。」旨説明するとともに、前記のような条項の記載のある臨時雇用者の就業に関する内規(末尾に継続契約一年を越える臨時雇用者に対する特別内規も記載されている。)を示した。そして、同支社長は、原告が帰った後、同日のうちに原告採用についての本社の許可を求め、翌日これを得た。
(二) 同月二三日、同支社長から電話で被告会社への臨時雇用者としての採用を知らされて呼出された原告は、同月二五日、被告会社福岡支社の応接室において、「私の契約期間は昭和五十三年一月二十五日までであることを確認いたします。」と記載されている書面に署名し、更に同年二月二日には、被告会社本社総務局から送られてきた就労承諾書(各契約内容の他契約期間として「昭和五二年一月二六日から同年四月二五日の三か月、期間満了までに会社・本人の両者に異議がない場合はさらに三か月を限り延長する。ただし継続契約は一年を限度とする。」との記載がある。)にも署名捺印して提出した。
(三) 原告は、昭和五二年一月二五日から勤務を始めるようになり、倉庫業務を中心として売上げ調査の手伝い等に従事したが、同年四月二五日の就労承諾書による三か月の契約期間満了の際は、同書面の記載どおり特に何らの手続きを経ることなく、またその延長期間満了前の同年七月には再び被告会社に対し契約期間が同月二六日から同年一〇月二五日まで三か月となった他はほぼ前と同じ内容の就労承諾書を提出したうえ、就労を継続した。
3 更に、被告会社福岡支社における昭和四六年以降の原告以外の臨時雇用者の雇用状況を見るに、それが別表のとおりであることは当事者間に争いのないところ、これによれば臨時雇用期間につき本社から内規に従った厳格な運用をするようにとの指示があった昭和四九年以降福岡支社において採用した原告以外の臨時雇用者の数は畠中裕子以下計五名であるが、同女及び小野恭彦を除く三名はいずれも一年もしくは二年(再契約を含む)未満の期間であることが明らかである。確かに畠中裕子については継続して二年三か月、小野恭彦については通算して二年一一か月雇用した形になっているが、右別表及び前記2の認定に供した証拠によると、前者は、偶々再契約終了時に後任者が見つからなかったためであり、後者は、再契約が一一か月で終了してその後一か月の空白期間があることから次の採用は新規採用と看做され内規に反しないと考えられたためであり、また、別表のうち畠中裕子、小野恭彦、森田あけみ及び吉永由美子の四人に対しては、当初の契約一年の期間終了の際に、被告会社から一旦退職餞別金が支払われていることが認められる。
4 1ないし3に認定の被告会社が臨時雇用制度を設けた趣旨、目的とその運用の実態、原告雇い入れの経緯、被告会社福岡支社における原告以外の臨時雇用者の雇用状況(昭和四九年以降)、殊に被告会社において臨時雇用者制度に関する昭和四一年の内規改正後福岡支社においてもほぼその厳格な運用がなされるようになった時期(昭和四九年)以降の昭和五二年に原告が臨時雇用者として同支社に採用されたという事実、前記新聞広告に記載の「期間=一年~二年」「臨時雇用者」なる文言(これらの文言は両々あいまって期間の定めがあることを当然に前提としたうえで、それが一年の契約か又は二年の契約(一年契約が更新ないし延長される場合も考えられる。)か未確定の趣旨と解するのが自然である。)、採用時の契約書の文言(雇用契約の内容の決定については契約書が最も重要であるということは一般社会の常識であり、それゆえ原告も前記内規及び確認書に目を通して署名捺印したのであるから、本件雇用契約の解釈には右書面の文言の解釈が最も重要と言うべきである。)、内規の記載、確認書の文言等諸般の事情を総合勘案すると、本件雇用契約は期間の定めのある契約であって、一年を限度として三か月ごとの期間延長が予定されているものと解するのが相当である。
そして、契約当時、原告の意思も右のとおりであることは、その後昭和五二年二月二日に右趣旨の記載がある就労承諾書に署名捺印して提出したことからも明らかである。
因みに、右改正後の内規上再契約が認められ、その回数については特段の制限規定を設けてはいないけれども、現実には一回限りでかつ一年の範囲内とする取扱いがなされていたのが少なくとも昭和四九年以降における被告会社福岡支社の実態であるうえ、もともと再契約者に関する問題は基本になる雇用契約の期間とは別の問題であるから、右解釈に何ら影響を及ぼすものでない。
5 原告は、右認定判断に関連して、被告会社の臨時雇用者の雇用実態によれば本件雇用契約は期間の定めのない契約だと主張する。
なるほど、上記認定からも明らかなように、被告会社本社における昭和四一年ころまでの状況を前提にすれば右原告の主張が妥当する余地もないではない。しかしながら、被告会社は、昭和四一年に臨時雇用者の長期継続雇用の実態を変えるために内規を改正し、本社においては直ちにそのとおりの運用を始めていること、昭和四九年には各支社へ内規の運用を厳格化するよう指示し、確認書も提出させるようにしていること、この結果、福岡支社においては昭和四九年以降かつてのように臨時雇用者の雇用期間が長くなることがなく、かつ一年を経過した後再契約する場合も一旦退職餞別金を支払っていること等の上記認定事実によれば、それまでの雇用契約更新を繰返して長期にわたるという実態はこの段階で改められたと言えるから、臨時雇用者の契約は実質的には期間の定めのない契約であったとする前例はその価値を失い、その後の臨時雇用者の契約の解釈に右実態を考慮することは許されなくなったというべきである。そして、昭和四九年以後の雇用状況を前提にすれば、被告会社の臨時雇用者制度の実態が原告主張のように臨時雇用者の期間の定めが有名無実化したものであったと評価することはできない。
上記認定判断と異なる原告のその余の主張もすべて採用することができない。
三 期間の定めがあることを前提とする原告のその余の主張について
1 原告は、仮に本件雇用契約に当初は期間の定めがあったとしても、三か月の期間を三回更新したことにより期間の定めの無いものに転化したとも主張する。
しかし、単に更新を繰返すのみで期間の定めがある契約が直ちに期間の定めのないものに転化することはなく、当事者双方に期間の定めを形式的なものにする旨の意思ないし期待等がある場合に初めて期間の定めのない契約又はこれと実質的に異ならない状態の契約への転化の可能性が生じる余地があると解されるところ、本件においては当初から契約の継続は一年と予定されていたのであり、これ以前の三か月ごとの更新はその当然の結果であってこれによっては何の期待も生じないというべきである。
2 原告はまた、被告会社におけるこのような臨時雇用者制度はそれ自体公序良俗に反して無効である旨の主張もする。確かに一般に臨時雇用者制度が採用されるのは、そもそも担当業務が一時的・季節的であったり、景気変動による需給にあわせて雇用量の調整を計ったりする必要がある等の場合が多いのに対し、被告会社における臨時雇用者の業務は季節的・一時的なものではなく右場合に該当しない。しかしながら、業務の内容が季節的・一時的なものではないにせよ、あくまでもそれは補助業務に過ぎないのであって、これにつき短期雇用制度を設けることが不合理、不適当ともいえず、また一般的に雇用契約の期間を定めることは、その期間が一年以下である限り寧ろ当事者の自由であって、労働基準法その他の法律上も短期の有期雇用契約を締結すること自体何ら禁じられていないところであるから、このような制度を採用するか否かは広く使用者の裁量に委ねられているというほかなく、ただ、これが専ら法の定める労働条件を潜脱する等の目的で用いられたような場合にのみ公序良俗違反となる余地があるというべきである。そして、本件臨時雇用者制度についてみると、被告会社の意図は賃金抑制にあるけれども、臨時雇用者の担当業務は単純作業で経験により能率向上が望めない補助業務に限られており、このような業務についてのみ一般の社員採用と異なる手続により臨時雇用者として採用することは、企業経営上の合理的必要性に基づくものといい得べく、逆に労働者の立場からみても短期の職場の供給源として一応の合理性が認められるのである。その他に、本件臨時雇用者制度が、原告主張のように、専ら団結権阻害を目的とするものと認めるに足りる証拠はない。
以上の次第で、本件臨時雇用者制度を公序良俗違反と言うことはできず、この点に関する原告の主張は採用できない。
四 叙上明らかなとおり、本件雇用契約は期間の定めのあるものであり、昭和五三年一月二五日限り契約期間の満了によって終了している。したがって、この契約期間の終了が解雇に相当するとの前提に立ち、不当労働行為に基づく解雇として無効であるとの原告の主張は、その前提を欠き失当である(なお、再契約しないという不作為が不当労働行為に該当する場合があるとして、原告の主張がその趣旨を含むとしても、不作為が違法とされることによって原告と被告会社との間に新たな雇用契約が当然に生じるものではないから、本件地位確認請求の関係においては依然として無意味な主張であることに変りはない。)。
してみると原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、すべて失当として排斥を免れない。
五 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤浦照生 裁判官 鹿野伸二 裁判官草野芳郎は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 藤浦照生)
別表
<省略>